HOME >> 相続・遺言マニュアル >> 遺産分割協議
遺産分割協議は、共同相続人全員参加でおこない、遺産分割の内容には、共同相続人全員の合意が必要です。したがって、事前に相続人を調査しておく必要があります。
また分割の対象となる相続財産を調査しておかないと協議の進めようがありません。不動産等財産の評価が必要になる場合もあります。
相続人と相続財産が確定したら、いよいよ分割内容について協議をします。法定相続分と異なった割合で分割することも全員が合意すれば可能です。
また、法定相続分を修正するための制度である寄与分の有無および額、特別受益による持ち戻しの額等も協議します。なお、遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをするものとされています。
共同相続人全員の間で合意が成立したら、遺産分割協議書を作成し、それぞれ署名押印します。
遺産分割協議書の作成は法律上義務づけられているわけではありませんし、作成しなかったからといって協議して合意した内容が、無効になるわけではありません。
しかし、事後の紛争の予防には書面化しておくことが重要ですし、預貯金や不動産の名義変更等に必要になるので、作成しておくべきでしょう。
当事者間の話し合いでの解決が困難な場合には、裁判所で調停・審判を行います。
まず、未成年者や認知症の方でも相続人であることは変わりません。しかし、判断能力が不十分であるため、本人に単独で遺産分割協議をさせることは、本人保護の見地から妥当ではありません。そこで未成年者については特別代理人制度、認知症等で十分な判断能力がない方については成年後見制度を利用して遺産分割協議を行います。
1.未成年者
未成年者は単独で完全に有効な法律行為を行うことができず、法定代理人が代理して行うか、法定代理人が同意することが原則として必要です。
そして、法定代理人は通常親権者である親です。父母の一方が亡くなった場合は、残された親が単独の親権者になります。とすれば、父が亡くなった場合、母が未成年の子の法定代理人として子の代わりに亡父の遺産分割協議を行えるかのように思えますが、これは誤りです。
遺産分割協議は母と子が父の残した財産をどう分割するか協議するものであり、母と子の間には客観的・外形的に利害の対立が存在するからです。母が全ての財産を取得し、子は一切の財産を取得しないという遺産分割協議を母が子を代理して勝手に行ってしまえては、子の利益は守られません。
そこで、未成年者の利益を守るため、親権者は特別代理人の選任を家庭裁判所に請求し、特別代理人が未成年の子を代理して遺産分割協議を行うことになります。
未成年の子が複数いる場合には、それぞれの子の間にも利害の対立が存在するため、一人の特別代理人が全ての子の代理をすることは許されず、それぞれの子について別の特別代理人の選任が必要です。
2.認知症等で十分な判断能力がない方
成人であっても、認知症、知的障害等で判断能力が不十分な方については、成年後見制度を利用して遺産分割協議を行います。
本人の判断能力に応じて、後見人、保佐人、補助人が選任され遺産分割協議を進めていくことになります。
成年後見制度については、別記の解説をご参照ください。
相続人全員において遺産分割協議を行わなければ遺産の分割ができないのが原則です。遺産分割協議は共同相続人全員でされなければ無効ですので、行方不明者がある場合にはそのままでは遺産分割協議はできません。
行方不明者がある場合には特別の手続が必要です。行方不明者の状況に応じて、不在者の財産管理人選任手続、失踪宣告手続を行う必要があります。
1.不在者の財産管理人選任手続
行方不明者が生存しているはずだが、音信不通で連絡がとれない場合には利害関係人が不在者の財産管理人を家庭裁判所に選任するよう請求することができます。
家庭裁判所に選任された財産管理人は行方不明者の財産について遺産分割協議に参加することになります。財産管理人は遺産分割協議を自由に行えるわけではなく、遺産分割協議を成立させるには家庭裁判所の許可が必要です。
2.失踪宣告手続
行方不明者の生死が7年以上不明の場合には、利害関係人が家庭裁判所へ失踪宣告を請求することができます。
失踪宣告がされると、行方不明者は生死不明から7年間満了したときに死亡したものとみなされます。
遺産分割協議でも行方不明者が死亡したものと扱って協議を進行することになります。
1.戸籍上明らかな共同相続人の一部を除外して遺産分割協議がされた場合
遺産分割協議は共同相続人全員でされなければ無効です。したがって、分割協議のとき戸籍上明らかな相続人を除いてされた遺産分割協議は無効であり、あらためて除外された相続人も参加して遺産分割協議を行う必要があります。
2.分割協議後に別の相続人が明らかになった、または相続人が確定した場合
(1)遺産分割協議後に相続人が明らかになった場合
相続人のうちに失踪宣告を受けた者が存在したが、遺産分割協議後に生存が判明し失踪宣告が取り消された場合です。
この場合他の相続人が失踪者が実は生きていると知らないで遺産分割協議をしたのであれば、その協議は有効です(32条1項後段)。ただし、失踪宣告の取消を受けた者は、失踪宣告によって財産を得た者に対して、現存利益の返還を請求できます(32条2項)。
(2)遺産分割協議後に相続人が確定した場合
(主に相続が開始されてから認知された子がいる場合)
第787条による認知の訴えや、第781条第2項の遺言による認知の場合です。認知は、出生の時にまでさかのぼって効力を生じるので(784条)、被相続人死亡時にすでに出生していた子は、相続人となります。
ただし、他の相続人が既に遺産分割を行っていた場合には、遺産分割をやり直す必要はありません。他方、認知された子は価額のみによる支払の請求権が認められています。具体的には認知された子の相続分に応じた金銭をその他の相続人が支払うことになります。
共同相続人間で争いがあるときには、独り占めを画策した一部の相続人が相続財産を開示しないことがありえます。
特に預貯金については、通帳や印鑑、キャッシュカードの管理を行っていた相続人が、そのまま隠匿・引きだしを行うことが比較的容易です。そこで、隠匿・引きだしのおそれが有る場合には、直ちに被相続人の生活圏内の銀行・金融機関へ死亡の事実を通知し、事実上口座から引き出せないようにする必要があります。
こうした場合、隠匿した本人も現実的に名義変更も出来ませんし、引き出しもできなくなります。
見つかった口座については、取引履歴の開示を銀行・金融機関に求めることになります。
相続財産の一部が漏れていたからといって、ただちに遺産分割協議は無効にはなりません。漏れてしまった財産について別に遺産分割協議をします。ただし、漏れていた財産が重要で、漏れた財産が遺産分割協議時に判明していれば、当該分割協議がなされなかったであろう場合には、無効になります。